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仙台家庭裁判所 昭和62年(少ハ)2号 決定 1987年11月02日

少年 K・I(昭43.8.3生)

主文

1  戻し収容申請事件について

少年を、昭和64年11月1日まで、特別少年院に戻して収容する。

2  窃盗保護事件について

少年を保護処分に付さない。

理由

第一戻し収容申請事件について

1  本件申請の理由は、本件記録中の東北地方更生保護委員会作成の戻し収容申請書記載のとおりであるから、これを引用する。

2  当裁判所の判断

イ  少年は、昭和61年7月10日当裁判所で窃盗、同未遂の非行により中等少年院送致決定を受け、盛岡少年院において処遇を受け、東北地方更生保護委員会の仮退院許可決定により、特別遵守事項として、「他人の金品を盗んだり、欺しとつたりしないこと。」、「家出、放浪を絶対しないこと。」、「定職に就いて、まじめに、辛抱強く働くこと。」、「すすんで保護司を訪ね、指導、助言を受けること。」などの事項を定められて、同62年8月21日父の出迎えを受けて仮退院し、父と共に保護観察所に出頭して、保護観察についての犯罪者予防更生法34条2項所定の一般遵守事項および前記特別遵守事項の確認など指導を受け、保護司のもとも訪れたうえ、父のもとに帰住した。そして、少年は少年院在院中から住込み就職を希望していて、以前知り合つて雇用を承諾していた土建業者を訪ねたが、断わられたことから、同月24日保護観察所に出頭し、更生保護会○○会での生活を希望したため、同所は翌25日から同会に委託することにしたところ、少年は当日出頭せず、9月2日再び保護観察所に出頭し、○○会での生活を希望したので、同所は同会に少年を同道した。ところが、少年は翌3日無断外出し、翌4日戻り、求職中であつたところ、同月8日同会に在所中の者のロツカーから6、000円位を窃取し、同会を出て、仙台市内を放浪し、その間本件第2の窃盗のほか3、4件の車上荒しの非行を犯し、同月17日たまたま父と出遇い、父と共に警察に出頭して取調べを受け、保護観察担当者の指導を受け、父のもとに帰つたが、同月24日再び家出し、仙台市内を放浪し、日中寝て夜間徘徊する生活を続け、その間店舗から50、000円位、駐車中の車からビデオテープやカセツトテープ30本位、地蔵堂からさい銭9、000円位、駐車中の車から免許証、通帳などを窃取する非行を犯した。以上のように少年が家出して、所在不明になつたため、9月30日保護観察所長から当裁判所に引致状の請求があり、同日引致状が発せられ、10月7日警察官が少年を発見し、引致状が執行され、調査の結果、東北地方更生保護委員会において審理開始決定をし、鑑別所に留置し、10月12日当裁判所に本件戻し収容申請がなされたものである。

ロ  以上少年の行状は、前記一般遵守事項中、「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」、「善行を保持すること。」の定めや、特別遵守事項に違反するというべきである。

ハ  少年は、生後まもなく母から遺棄され、父方親族方で養育され、3歳のとき父母離婚し、5歳のとき養護施設に収容されて、昭和58年3月中学校3年生のとき父に引取られたが、社会適応の遅れから、怠学、学校内における盗みなどがあり、同59年3月中学校卒業後も、職場不適応により頻回転職し、家出、放浪を繰返し、その間の車上荒し、侵入盗などや他人のクレジツトカードを利用して物品を購入しようとした許欺未遂の非行により、同60年3月19日中等少年院送致決定を受け、特殊教育課程履修のため医療少年院において処遇を受け、同61年4月24日仮退院し、父のもとに帰住し、一時就職したが、まもなく家出、放浪し、事務所などに侵入して金品窃取(未遂)の非行を重ね、同年7月10日中等少年院送致決定を受け、盛岡少年院において処遇を受けたものであつて、少年が家出、放浪し、非行を重ねることについては、自我や社会性の発達未熟で、劣等感が強く、知的能力も低いことから、親密な人間関係が形成できず、他人に煩わされることなく1人で気侭に生活したいという意識が強く、それに伴う責任の自覚も乏しく、自立の能力もなく、目標を持つことも、改善の意欲もなく、障害に対し解決しようとしないで逃避し、生活に困ると、さしたる罪障感もなく、非行に走るという性向や、幼少時からの施設での生活が長期に及んだため、父に対する親密な感情の形成が妨げられ、家庭(父、継母)に安定感を見い出せず、疎外感を抱いていることによるといえるが、以上の性向や父子関係、家庭関係は、これまでの少年院における矯正教育によつてもなお改善されず、本件にいたつたものであり、家出、放浪して、非行に及ぶという行動形態は固着化している(少年は、少年院を出るときは決して間違いを起こさないという気持で出るが、その気持とは別な、何か判からない力が、癖なのかもしれないが、自分を動かしてしまうと述べている。)。

以上によると、少年の改善、更生のためには、社会性、自立心、忍耐心、目標を持ちこれを達成する意欲、規範意識を涵養し、少年と父との間の理解、交流を深めることが必要であり、そのためには、さらに矯正教育を施すことが相当であり、なお、少年自身、少年院に戻ることになつても、自分を捨てないで頑張るつもりであると述べ、更生の気持があることが認められ、父も、決して見捨てることなく見守つていきたいと述べ、監護の意思があることが認められ、矯正教育の効果も期待できる。

ニ  よつて、本件戻し収容申請は理由があるので、これを認容し、少年を少年院に戻して収容すべきところ、少年の年齢や、資質上の問題は根深く、非行性は固着化していることからすると、特別少年院において処遇するのが相当であり、期間についても、少年院における処遇後も相当期間保護観察による指導、監督が必要と思料されるので、2年間を相当とする。

第二窃盗保護事件について

(非行事実)

少年は、

1  昭和62年9月16日午前4時ころ、仙台市○町×丁目×番××号A方店舗併用住宅において、同人所有の現金22,000円位在中の小引出し1個(時価2,000円相当)およびB所有の出入口などの鍵2個(時価2,000円相当)を窃取した

2  前日時ころ、同市○町×丁目×番××号C方駐車場に駐車中の軽貨物自動車内から、B所有の現金300円位を窃取した

ものである。

(適条)

刑法235条

(処遇)

本件については、前示のとおり戻し収容申請認容の判断において考慮されており、また、少年は戻し収容によつて少年院に収容されることになつていることからすれば、重ねて保護処分に付する必要はないので、保護処分に付さないこととする。

第三結論

よつて、本件戻し収容申請事件については、犯罪者予防更生法43条1項により、少年を昭和64年11月1日まで特別少年院に戻して収容することとし、本件窃盗保護事件については、少年法23条2項により、少年を保護処分に付さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 濱野邦)

〔参考〕 戻し収容申請書 東北委審第365号

戻し収容申請書

昭和62年10月12日

仙台家庭裁判所__支部 殿

東北地方更生保護委員会

下記の者は、少年院を仮退院後仙台保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する。

氏名

年齢

K・I 昭和43年8月3日生

本籍

宮城県登米郡○○町○○××番地

住居

仙台市○○×丁目××-××○○ハイツ××号(仙台少年鑑別所留置中)

保護者

氏名

年齢

K・S

大・<昭>19年5月18日生

住居

仙台市○○×丁目××-×× ○○ハイツ××号

本人の職業

無職

保護者の職業

タクシー運転車

決定裁判所

仙台家庭裁判所―支部

決定の日

昭和61年7月10日

仮退院許可委員会

東北地方更生保護委員会

許可決定の日

昭和62年7月27日

仮退院施設

盛岡少年院

仮退院の日

昭和62年8月21日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙1(仙台保護観察所作成の「保護観察の経過及び成績の推移」)記載

のとおり

申請の理由

別紙2のとおり

必要とする収容期間

参考事項

添付書類

1 引致状謄本1通

2 質問調書(甲)1通

3 質問調書(乙)1通

4 少年院仮退院許可決定書抄本1通

5 少年調査記録

注意 本人が施設に収容されているときは、その施設名を住居欄に付記すること。

別紙1

1.昭和62年8月21日 父の出迎えをうけて盛岡少年院を仮退院し、同日当庁に出頭(同伴者父)、父のもとに帰住した。

当庁に出頭した際の少年は、時折、笑みを見せたものの、かろうじて応答する態度であった。

遵守事項を再確認させた。(特に特別遵守事項第4号-家出の禁止事項を説示、強調した。)同日、担当者宅を来訪した。

2.同月24日 少年任意出頭、少年院入院前に知りあった黒川郡○○町○○所在の土建業者を父と共に訪問したが雇用困難な状況にあり、就職は不能、○○会を見学したい旨の申出があり、同日少年を同道し、同会に出向いた。

少年は同会で生活したい意思表示をしたため、翌25日から委託を予定したがその当日少年は家を出たまま同会に赴かず放浪した。同日帰宅。

3.同月28日 少年出頭し、自宅から通勤で働くことにする旨述べたが同年9月2日再び出頭し、もう一度○○会で出直したい旨であったので再度少年を同会に同道した。(同会での定着状況に疑問があったため転居扱いはしなかった。)

翌3日早朝 同会から無断外出したが4日に帰会し、求職中であったところ、同月9日少年は同会在会者の現金約6,000円を持出して所在不明となった。

4.同月17日 父が少年を近隣で発見したとのことで同伴出頭した。

少年は○○会在会者の現金窃取および○○警察署管内で2件の窃盗事件を敢行した旨供述し、同日、同警察署に自首し、在宅での取調べをうけた。

5.同月18日 担当者が少年宅を訪問し、自重を促したが少年は、全く無表情であり、沈黙の状態であった。

同月24日 少年は再び家を出た。父は少年が窃盗等の非行をかさねることに不安の意を示した。

同月30日 仙台家庭裁判所に引致状を請求し発付された。同日付東北地方更生保護委員会に引致状発付通知。

同日○○警察署に少年の所在発見について協力を求めた。

6.同年10月2日 同警察署に少年の再非行についての事実関係について照会した。送致予定の窃盗非行は一件の旨。(詳細は同日付電話連絡書(写)のとおり)

同月7日 同署から少年を発見し、同行する旨の電話連絡があった。

同日引致。調査の結果、戻し収容の申出をすることとした。同日 審理開始決定、仙台少年鑑別所に留置。

別紙2

申請の理由

少年は、当委員会の決定により、その仮退院期間を昭和63年8月2日までとして、昭和62年8月21日盛岡少年院から仮退院を許され、表記住居の父のもとに帰住し、以来仙台保護観察所の保護観察下にあるところ、昭和62年10月7日同保護観察所に引致され、同日当委員会から「戻し収容の申請について審理を開始する」旨の決定を受け、同日以降留置期間を同年10月16日までとして仙台少年鑑別所に留置されているものである。

仙台保護観察所長からの戻し収容申出書及び関係書類を精査するに、下記1記載のとおり、少年に遵守すべき事項を遵守しない事実が認められ、かつ、下記2記載のとおり、すでに保護観察による指導監督及び補導援護の方法をもってしては、その改善更生を図ることは困難な状況に至っているものと認めざるを得ないので、本申請を行うものである。

1 遵守事項違反の事実

少年は、

(1) 昭和62年9月9日保護委託先である更生保護会○○会を出奔し、以降同月17日父親に発見されるまでの間、就労することなく仙台市内において野宿・放浪の生活を送り、更に同月24日表記住居から家出し、同年10月7日○○警察署員に発見されるまでの間、不就労のまま同様の放浪生活を続け

(2) 同年9月9日仙台市○○××-×財団法人○○会において、同会在会者D所有の現金6,000円位を窃取したほか、同月12日ころから翌10月7日ころまでの間に仙台市内において10件近い侵入盗や車上狙い等を重ね

たものである。

上記(1)の事実は、少年が仮退院するに際して遵守することを誓約した犯罪者予防更生法第34条第2項所定の遵守事項(以下、一般遵守事項という。)第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」、並びに同法第31条第3項の規定により当委員会が定めた遵守事項(以下、特別遵守事項という。)の第4号「家出、放浪を絶対にしないこと。」及び第5号「定職についてまじめに辛抱強く働くこと。」に、また上記(2)の事実は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」、並びに特別遵守事項第3号「他人の金品を盗んだり、だまし取ったりしないこと。」にそれぞれ違反していることが明らかである。

2 戻し収容を相当とする理由

少年は、仮退院後、思うような職に就けないことなどから自ら更生保護会○○会への入会を希望し、一旦同会への入会期日も決まったが少年の勝手な行動から入会に至らず、その後2度にわたる翻意を経て昭和62年9月2日ようやく同会に委託されたものの、入会後わずか1週間ほどで同会をとび出して保護観察から離脱し、以降仙台市内○○公園付近を徘徊・放浪して公園や橋の下で野宿するなどの浮浪生活を送っていたところ、同月17日、たまたま父親に発見されて自宅に連れ戻されたものである。同日、少年は、父親同伴で仙台保護観察所に出頭したため保護観察官から改めて「家出、放浪を絶対にしないこと。」等の遵守事項等について指導されて父のもとに帰宅したが、それから1週間後に再び家出をして所在をくらまし、前回と同様、放浪・野宿の生活を続ける中で侵入盗や車上狙い等の窃盗を重ねていたもので、自ら保護観察及び保護者の正当な監護から離脱していたものであって更生意欲は認め難い。

一方、保護者は、少年の家出中の捜査や被害弁償に努め、少年との話し合いの場を持つなど少年を更生させるため尽力してきたものであるが、少年の生活に改善はみられず、現在においては再度の矯正教育を望んでおり、保護者のこれ以上の指導は期待できない状態にある。

以上を総合勘案するとき、今後このまま推移すれば、少年が家出・放浪の上窃盗行為を累行するおそれが強く、保護観察の継続による改善更生は期しがたいものと思料され、少年院に戻して収容の上、再度、相当期間の矯正教育を施すことが必要かつ相当である。

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